インタビュー – 第1回 実業団の猛者 梅山義隆(NTT東日本) 後編 大学生〜現在

数々のタイトルを獲得し、選手としての集大成の時期にさしかかっている、梅山義隆選手(34歳)。
剣道を始めて30年、その足跡を駆け足でお伝えしようと思います。
今回のロングインタビューは、前編を剣道を始めたキッカケから高校生まで、後編を大学〜現在と2回に分けてお伝えします。

挫折、衝撃の舞台とは・・・

梅山義隆

ー専修大学へ進学し、剣道を続けることになります。稽古は、どうでしたか?
梅山義隆選手(以下:梅山):普段の稽古は、1時間半くらいです。高校の時に比べたら、楽でしたね(笑)。ただ合宿は、すごくキツかったです。高校以上でした。

ー普段の稽古で、物足りなさや方針に、疑問を持ったりしませんでしたか?
梅山:それはなかったですね。専修大学の山田監督は、自由にというか、個性を生かすというような方針だったので、私に合ってました。監督から、「左手・左足」を特に意識する事を教えられ、強くなれたと思います。福大大濠の黒木先生も、長所を延ばすような感じだったと思います。

悔しい2位

ー大学では、関東学生団体優勝などで活躍されました。今日は大学3年生時の、関東学生個人2位について、お伺いしたいと思います。「2位」というのは、単純にスゴい事だと思います。ただ、選手によって、「2位」の受け止め方はさまざまです。先日のバンクーバーオリンピックで、銀メダルを獲得したフィギュアの浅田選手は「悔しい銀(2位)」、スピードスケートの長島選手は「嬉しい銀(2位)」でした。この例えで言うと、梅山選手の2位は、どちらですか?
梅山:「悔しい2位」でした。準々決勝あたりから、あの「ひらめきの面」が出始めたので、「優勝できる!」と思いました。そして決勝戦の相手は、1学年上の川原選手(当時:明治大学)。延長を繰り返し、最後は一瞬の隙をつかれて負けてしまいました。

ー敗因は、なんだったのでしょうか?
梅山:調子が良かったので、自分から攻めすぎてしまったしまったのだと思います。例えばですが、必殺技は「ここぞ!」と言う時に出してこそ、必殺技と言えるのでしょう。この敗戦で「試合の組み立て方」という課題ができたので、負けて良かったとは言えないですけど、得るものは大きかったです。

梅山義隆
手首の柔らかさを活かした胴も得意としている。

ー「組み立て」「得たもの」とは、具体的にどのよなことですか?
梅山:自分のスタイルである「攻める」だけでは勝てない、という事を学びました。「打つ機会」を待つというか、作るというのでしょうかね。
ーなるほど。ちょっと話がそれてしまうのですが、試合で「負けてしまうかも?」と、思う事はありますか?
梅山:ん〜、ないですね。負ける事を恐れず「やってやるぞ!」って思います。予想外の力が出せたりしますね。
ーそうなんですか。そして大学を卒業し、現在のNTT東日本へ入社します。警察官になろうと思ったことはないですか?
梅山:ないですね。教員になりたかったです。ただ、専修大学では「社会科」の教員免許しか取れなかったんです。できれば体育の免許が欲しかったです(笑)。今は、母校・専修大学剣道部のコーチとして、私の経験してきたことを、少しでも学生達に伝えたいと思ってます。
ーNTT東日本は、実業団の中で強豪ですが、あくまで会社員です。警察や教員に比べたら、稽古が少ないと思います。1回の稽古に対するモチベーションや、考え方などは変わりましかた?
梅山:稽古が1時間であっても、それ以上の稽古ができるようにしたいと思ってます。現状ですと、週に1〜2回できればいい方です。仕事によっては2〜3週間、稽古ができないとストレスになります(笑)。
ー具体的に「時間以上の稽古」とは、どういうことですか?
梅山:稽古が終わったら、稽古日記みたいなものをつけてます。例えば3分の地稽古行ない、後でその3分を思い出して、反省点などを手帳に書いています。気持ちの問題でもあるのですが、頭で考え、イメージする事によって2倍、3倍の稽古をしています(笑)あとは、稽古のための心の準備をします。稽古前、または稽古する数日前から。
ーなんかデートの前に、あの映画見て、あそこでご飯食べて・・・なんて考えますよね?そんな感じですか?(笑)
梅山:そうそう、その感覚に近いもしれないですね(笑)。あと、稽古の為に仕事や用事は、済ませるようにしてます。別に、仕事で手を抜いたりサボったりする訳ではないですよ(笑)。それくらい1回の稽古を大切にしてます。

出場してはいけない大会に出場してしまった・・・

出場してはいけない試合に出てしまった
栄光と挫折を味わった日本武道館

ーでは、全日本選手権に出場したときの事をお伺いします。2006年、東京予選で3位になり、出場権を得ました。準決勝の相手は?
梅山:警視庁の内村選手です。以前に対戦していたので、イメージはあったのですが・・・ 結果的に2本負けでした。準々決勝までは「ひらめきの面」が、出てたんですよ!ただすでに選手権出場が決定した後だったので、足の痛みを感じてしまい(笑)準決勝はでなかったですね(笑)。
ー内村選手の印象はどうですか?
梅山:強いです。どこから何がくるか、わからないですからね。その予選の前年に、内村選手と練習試合で対戦していて、引き胴で勝ったんですよ(笑)。練習試合なので、内村選手は100%の力ではないかもしれませんけど。その勝ちは、剣道をやる上での自信にもなっています。
ーそれは自信になると思います! 全日本選手権は、どうでしたか?
梅山:まず、1回目の出場が23歳の時で、まわりは年上の人ばかりでした。控え室でも居場所がないような感じでしたし、なにより完全に浮き足立ってましたね。試合も、何がなんだかわからない間に、終わってしまいました。そして2回目、今度は年下ばかりでしたね(笑)。その時は、全日本選手権の雰囲気を味わうことができました。試合は負けてしまいましたが、自分の剣道をすることができました。満足はしてないですけどね(笑)。
ー2回目の出場では、1回戦で福岡代表・松岡選手と対戦しました。
梅山:松岡選手とは、高校時代によくやっていました。印象的なのは2年生の冬、第2回全国選抜・福岡予選決勝の相手です。高校の時に勝てなかった相手が、まさか全日本選手権で対戦し・・・やっぱり勝てなかった(笑)。
ー苦手な相手、タイプって言うのがあるのでしょうね。「全日本選手権出場」、自信がついたのではないでしょうか??
梅山:いや・・・ 出場してはいけない大会に出場してしまった・・・。パンドラの箱を開けてしまったような感じ、と言うのでしょうかね。1回目の出場後は、自分を見失ってしまいました。
ー燃え尽きてしまったのでしょうか?
梅山:プレッシャーですかね。大学を卒業し、まだ勢いのある中で、予選を勝ち上がることができたんです。ところが、あの大会に出場することで、勝手に周囲の期待を感じてしまい、いい試合をしなければならないと思い込んでしまった。「またあの舞台に上がるには・・・」なんて考えても、答えがわからなかったですね。初めて剣道で辛いと感じました。
ーそれでも稽古は続けていたんですよね?
梅山:続けてはいましたが、自分の剣道がまったくできなかったです。初出場後2〜3年は、全然ダメでしたね。試合でも、当然勝てなかったです。
ー復活のキッカケは??
梅山:ん〜 続けているうちに・・・というのでしょうか。気持ちのリセットの仕方を覚えました。過去の栄光は栄光として、胸にしまうことができるようになった、というのかな。うまく忘れるというか・・・。だからと言って、またすぐに全日本に出場できたわけではなく、8年かかって2回目の出場ができたんです(笑)。
ー全日本選手権は、「剣道の強さ」だけではなく、「心の強さ」も必要なんですね・・・。

引退、考えますね。 ただ・・・

今年の都道府県大会、東に京代表・五将として出場する
今年の都道府県大会、東に京代表・五将として出場する

ー今後の目標は??
梅山:やはり最終的な目標は、全日本選手権に3回目の出場をすることです。2度ある事は3度ある・・・なんて(笑)。
ーいやいや、期待してますよ!あと、4月の全国都道府県対抗剣道優勝大会・東京都代表(五将)として出場します。
梅山:いままで、予選で勝てなかったので・・・ 初代表です(笑)。今回の予選には、妻と子供が来ていたので、いままで以上に「がんばらないとな」って思ったんです。勝ててホントに良かった(笑)。本戦は団体戦なので、迷惑を掛けないようにやるだけです!!
ー期待しております!!梅山選手は、現在34歳です。そろそろ、「引退」を考えたりしますか?
梅山:ん〜 NTT東日本のキャプテンもおりましたし、引退、考えますね。 ただ、すぐに辞めようとは思ってないです。今まで以上に、1年1年をしっかり集中して、やっていきたいと思ってます。40歳までは、現役でやってないと思います(笑)。あくまで「現役引退」なだけで、剣道を辞めるって訳ではないですからね。昇段審査も、ずっとありますし。
ーわかりました。最後に、お子さんがお生まれになりました。ズバリ、剣道をやらせたいと思いますか?
まだ小さいですからね(笑)。ん〜、やっぱり一度はやらせたいと思いますよ。その後は本人次第で(笑)。
ー奥様も剣道をやられていますよね?いつかは親子で三人団体戦なんてできたらおもしろいですね(笑)。
娘が18歳になったら、私は50歳をすぎてるのか〜 まだまだがんばらないとダメですね(笑)。
ー今後も、ご活躍を応援しております!今日は本当にどうもありがとうございました!!


インタビュー中は終始笑顔で、「ホントに強いのかな??」なんて思ってしまうほどでした。
梅山選手は、「面を付けたら強気になれる」と言ってました。確かに先日の都道府県大会東京予選でも、勝負強さをいかんなく発揮してておりましたので、間違いないです!!4月の本大会では、「ひらめきの面」をだしていただきたいと思います!!


梅山義隆選手

梅山義隆(うめやまよしたか)
昭和50年12月3日生まれ 大分県出身
身長168cm 体重70kg
剣道六段
大分・三芳少年剣士会にて剣道を始める。
日田市立東部中学校
福大大濠高校 九州大会個人、玉竜旗、インターハイ 各優勝
専修大学 関東学生(団体)優勝、関東学生(個人)2位
NTT東日本 全日本実業団、関東実業団 各優勝3回
※全日本選手権 2回出場
※専修大学剣道部コーチ

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